「昔まだ松茸が特別なもんじゃなかった頃、おばあちゃんたちは松茸を適当にちぎって、どっさりと味噌汁に入れていました。
僕も子供の頃、そんな味噌汁を、ざくざくとした歯応えを楽しみながら食べていました。そんな思い出を生かしたくて作りました」。
うやうやしく、エラソーに出される松茸は、松茸自身も迷惑だろう。
他のキノコより別に偉くないんだよ。
味噌汁は、そう言っていた。
味噌の香りで、松茸の香りはあまりしないが、この味噌汁のおいしさは、そこにはない。
どうしても貧乏根性て、裂かれた松茸一本一本を食べようとしてしまうが、やめよう。
たっぷり入った松茸数本を箸でつかみ、口いっぱいに頬張る。
「ザクザクッ」。
勢いのある食感を、響き渡る音を楽しみながら汁をすすり、香り高い味噌と出逢わせる。
途端に体の中は、幸せで満ちていく。
遠野「とおのや要」にて。