今年大井町に、一軒のバーが生まれた。
恐らく最初に訪れる人は、途中で不安になるかもしれない。
線路際の閑静な住宅街に、ひっそりと佇んでいるからである。
ドアを開けると、エクボがチャーミングな、美しい女性が出迎えてくれる。
大手会社に勤めていた彼女は、激務に疲れて、安らぎを求めるようにこの店を始めたのだという。
飲んべの彼女とは以前、東十条や阿佐ヶ谷を飲み歩いたことがある。
酒が相当強かったな(きっと今でも)。
彼女が選んだお酒は、テキーラである。
というと皆不思議な顔をするが、ハリウッドのセレブ達の間では最も人気の酒で、1500種以上あるという。
日本では、これからもっとも伸びていく酒。さすがその辺りも敏腕エディターだなあ。
置いてあるテキーラは、全て混ぜ物無し、アガペ100%である。
四種ほど飲み、その香りの違いに驚いた。
中でも気に入ったのが、フレンチオークの樽で1年以上寝かせたアネホで、「CASA NOBLE」。高貴な家か。
ショコラのような甘い香りで誘惑するテキーラである。
ストレートで、じっくりやっていると、時間が緩やかにほぐれていく。
酔っていくが、他の40度以上のスピリットと違って、体がシャキッとしながら酔いが進行していく。体が弛緩しないのである。
彼女いわく、それがテキーラの酔いだという。
「二日酔いもしないです」という。
飲んべの言うことだから、本当だろう。
いいなあ。ちょっと遠いけど、テキーラを勉強しに通おうかな(彼女に会いに行く口実ではない)。
店の名はGatito 子猫である。
最後に尋ねた。
「仕事辞め、バーをやってよかったことは?」
「猫と遊ぶ時間が増えました」。
そう彼女は笑って、素敵なエクボを作ったのだった。