柔らかい

食べ歩き ,

柔らかい。うま味も甘みもどこまでも柔らかく、静かに舌の上を滑っていく。
「智映」で出された、「鱧と松茸のすき煮」を一口飲んだ瞬間、皆息を吞んだ。
小豆色のつゆは、焼いた鱧の骨と少量の昆布出汁、極少量の薄口、みりん、砂糖。
骨切りしたはもに、焼いた葱、大きく香りが高い松茸。
それだけで構成された汁は、まったく人間の手を感じさせず、自然のままのさりげなさと雄大があって、恐れさえ感じるうまさである。
舌を過ぎ、喉に落ち、胃の腑におさまっていく。
しかしそれは消え去ろうとはしない。
口の中にいつまでも優しい余韻となって、残り続ける。
1分たっても、5分たっても、香りと味わいが、口の中で漂っている。
酒を飲んでも、水を飲んでも消えはしない。
ワインの余韻とは違うおとなしさで、夜の海の静寂と寛容をはらんで、いつまでも滞留する。
従来の料理法を頭から完全に外し、鱧と松茸だけを見つめて考え出された料理であり、生かされている喜びに、畏怖さえ感じさせる料理である