人間の舌は保守的である。

食べ歩き ,

人間の舌は保守的である。

新しい料理が出された時、心の片隅で既存の料理と比べてしまう。

「自分は寿司は握れない。伝統的な寿司に勝とうとも思わない。でも寿司を表現したかった」。

今年の冬に、鹿児島から京都に店を移す塩澤さんは、そう考えたという。

割烹でも時々寿司が提供される時があるが、食べて「やはり餅屋は餅屋だなあ」と、ありがたがらない自分がいた。

寿司を出すと聞いて、大丈夫だろうかと思った。

斬新的な料理を出すとはいえ、「CAINOYA」はイタリアンである。

「広い心で食べてください」。そうマダムが言って出された寿司は、三種類だった。

コハダ、イカ、エビである。

虚心坦懐にして食べた。

ありである。

寿司の新しい形、未来の形ではなく、寿司という題材を元に作った新しい料理といったほうがいいだろう。

コハダは、リーゾサラダをヒントに、タルタルをかまし、イカは 、アサリ出汁を浸透させて、ナスタチウムを挟んである。

逆巻にしたエビは、エビの殻の出汁を浸透させてある。

そして酢飯は、赤酢や各種ヴィネガー、トマト出汁を混ぜてあるという。

脇には、しゃれて、酢漬けのガリンゴ。

特にコハダとエビが良かった。

なによりも嬉しかったのは、合一感である。

最近の若い寿司屋さんの握る寿司に欠けていることが多い、酢飯とネタのバランスがいい。

魚と酢飯が見事に共鳴しながら、どちらかが口の中に残ることなく、同時に消えていく。

そうしたにぎり寿司の精神を、従来のにぎり寿司とはまったく違う料理でありながら、具現化しているところが素晴らしかった。

塩澤さん、京都に期待しています。CAINOYAの全料理は、別コラムを参照してください