人の手が

食べ歩き ,

人の手がかかっているのに、自然が自然のままに存在する料理とは、あるのだろうか。
「アルケッチャーノ」の「茸のパスタ」。
おだし、はつたけ、いろたけ、黒皮茸のフェデリーニである。
一口食べて目を閉じると、森の静寂に佇んでいた。
澄んだ空気を浴びながら、秘めやかな苔の香りに包まれていた。
パスタと茸の味が一つとなって、丸く、そこに人の作為がない。
自然の不思議と雄大に包まれる。
食べるごとに心が座り、体の内から精気が湧き出てくる。
干した茸の出汁で茹でたフェデリーニと、新鮮な茸、隠し香りのデイル。
自然と共生し、自然に敬意と畏怖を抱き、すべての森羅万象に神が宿ると信じてきた、日本人の料理である。
「自然」と簡単に言うけど、自然を再現する事など人の手では出来ない。
しかしこの料理には、その可能性に近づいた、痺れるような人間の叡智と自然への限りなき愛が、静かに息づいている。