京都「萬福」

中華そばの底力。<京都の平生68>

食べ歩き ,

「中華」。「中華二つ」。「中華にご飯」。「中華大盛り」。

ここに入ってくるお客さんは、みんな中華そばを頼む

うどんや蕎麦、カレーライスや丼物もあるのに、みんな中華そばを頼む。

そればかりでは、店の人もやりがいがなかろう。

僕はそう思い(本当は食い意地が張っていただけなのです)、昼からビール中瓶と牛すじ煮込みを頼んでみた。

濃い牛すじ煮込みに七味をかけ、こいつをあてに、ビールを飲む。

ほんのり気持ち良くなってきたところで、中華そばに、きつね丼(小)を、お願いした。

そのかんもお客さんは次々と入ってきて、「中華そば」を頼む。

やがて登場した中華そばは、昭和初期から事態が止まっていた。

醤油味の濃い、ちょっとしょっぱいスープ、細いストレートのやや柔らかい麺、たっぷりの青ネギ、薄く味付けたメンマが二切、薄く切った盤面の広い煮豚か二枚、そして茹でもやし。

個性があるわけではなし、無化調でもなし、行列ができるわけもなし。

だがある日無性に会いたくなる中華そばなのである。

そしてきつね丼は、甘辛く炊いた油揚とその煮汁を少しかけた丼で、その侘しさがたまらない。

一人静々と中華そばをすすり、きつね丼を掻きこむ。

時々テレビを見ながら、黙々と食べ、終わる。

ここはそんな姿が一番似合う。

 

京都「萬福」にて。