「中学生の時、テレビでこの高校のことを知り、将来は作り手になりたいと思い、高校に入りました」。
日本で唯一の私立農業高校、「愛農高校」の養豚部部長、3年生になる彼はそう言って、はにかんだ。
彼は、今後鹿児島の大学で畜産を学び、養豚の道に進む予定だいう。
全校生徒60名は、遠く家からはなれて寮に住み、学問と農業を学ぶ。
恋愛禁止、携帯スマホ禁止、テレビも見ることもままにしかならず、PCも教室にしかない。
校庭は草だらけだが、ラグビーもバレーの部活もやる。
彼らは全国から希望して、この学校にやってきた。韓国からの留学生もいる。
生徒たちと昼食を共にしたが、世の中の高校生と明らかに違っていることがあった。
男の子も女の子も、姿勢の悪い子がいないのである。
もちろん、太っている子もいない。
そして笑顔にウソがない。
毎朝6:50分に起床して、土を耕し、雑草を摘み、搾乳をし、卵をとり、収穫をし、豚舎や牛舎、鶏舎の掃除をし、屠畜もする。
情報や世俗に汚されず、他の命を絶って、自分たちが生かされている意味を、日々考えている。
部長の彼がシェフに尋ねた。「アンケートを送ってもいいですか? 僕たちの豚が他とどういう風に違うのか、餌を変えたら味がどういう風に変わるのか、お客さんはどういう風に喜んでもらえるのか、知りたいんです」そう言って、18歳の彼は、眼鏡の奥の細い目を輝かせた。
賢い豚たちは知っているのだ。自分たちがどれだけ愛されているかを。
だから全国のブランド豚肉よりも、おいしい豚肉が生まれるのである。
たった数時間いただけで、こんなことを書くのはおこがましいのはわかっている。だが、この学校に踏み入れた途端、澄んだ空気が自分を刺した。
山奥の澄んだ空気ではない。
人々と動物が無理なく暮らす、純粋な気配が生み出す澄んだ空気が、自分を戒めた。
「神の愛を忘れた良心は麻痺し、土を離れた精神は枯死する」。
愛農高校 建学の精神にある、冒頭の言葉である。