世に完璧はない。

世に完璧はない。

しかし限りなく完璧に近い。
味わいの構成。香りの立たせ方。共鳴。食材の質。加熱度合い。色気。調和。巧みな酸味使い。驚き。喜び。意外性。伝統料理への敬意。コースの流れ。全部四番打者でありながら、流れのメリハリのつけ方。食感の対比と融合。塩加減の緩急。隠された味の発見。一皿一皿の美しさ。店のロケーション。サービス。スマートとウィット。格式と温かみ。優美な時間。これが三つ星レストランである。
料理13皿、デザート3皿。
これだけ皿数が多くても、どの皿も鮮明に思い出せる。
味が蘇る。
それなりに量があるが、皿が進むたびにお腹が空き、次なる皿への期待が高まる。
料理を出すタイミングと、それぞれの料理の酸味が巧みに計算されてコースを設定しているからだろう。
この日のベストを選ぶのは難しいが、強いて言えば。
2018 Langoustine over an aniseed sea-bed &coral mayonnaise
パンセッタを巻いて焼いたであろう手長海老は、うっすらと薪火の香りをまといながらも、半生のエロい食感と火を通して生まれた甘みと香りを含んで、まだ生きているような生命感がある。
そこのアニスの甘い香りが漂って、官能をくすぐろうとする。
いけないやつである。
ソースと泡は、チャングーロという蟹のスープで、さらに球体状の、海藻、フェンネル、ウニのソースが添えられる。
これらをエビになすりつけて、ソースをからめて食べる。
ああと言って、体の力が抜ける。
んんと唸って、笑い出してしまう。
エビはいけないものを噛んでいるような、禁断の食感があってコーフンさせる。
皿の脇に添えた赤い粉は、エビ頭を粉状にしたもので、ふりかけて食べれば、エビへの想いを深くする。
今こう書いているだけで、再び食べたくなってきた。
色気と凛々しさ、エレガントと野生味を共存させた、これだけを食べにわざわざ足を運びたい、料理である。