神田「まつや」

一年に一回の邂逅。

食べ歩き ,

「鴨南蛮そば」は年中あるが、冬にこそいただきたい。
それも12月に食べたい気持ちを抑え、年を越してからお願いするのである。
「鴨南蛮そばをください」。
注文する声が、満をじていたため、少しうわずってしまった。
「鴨南蛮お待たせしました」。
年配の中居さんが、すっと目の前におく。
湯気を上げるつゆの上には、合鴨ロース肉が三枚、手前にはつくねとネギの長切り、奥に従うは、小口に切った洗いネギ。
まずはつゆをいただく。
熱い甘汁に、少し鴨脂が溶け込んでいる。
「ふうっ」。
深まったコクに、充足のため息一つ、目を細める。
お次は蕎麦をたぐろう。
ふっふっふう。ずるるる。
息で熱さを逃しながら、たぐりこむ。
途端に、外の厳しい寒気が逃げてい
体の中心を、熱き細い芯が突き抜ける。
ではいよいよ鴨肉を食べようかい。
噛めば、鉄分のうまみが滲み出て、気分が高揚する。
再びつゆ。そば。鴨肉。時折ねぎ。
二枚目は、上に柚七味をあしらってみた。
爽やかな香りと辛味が加わって、鴨がより勇壮になる。
ここいらで、つくねといこう。
柔らかくもなく、硬くもなく、ほどよ今とめに、誠実がある。
鴨の滋味が生きたつくねを噛みながら、そこへ蕎麦を流し込む。
目を閉じれば、鴨と蕎麦が戯れ合っている光景が浮かんできた。
つゆ。そば。鴨肉。時折ねぎ。
つゆ。そば。鴨肉。時折ねぎ。

食べ終えた。
しかしまだ終わっちゃあいない。
残ったつゆに、蕎麦湯を入れて締めるのさ。
脂がさっきより溶け込んで、あまつさえコクが膨らんだ豊かなつゆを、蕎麦湯がいなす。
これがまたいい。
1月まで我慢して、食べたからこそ、余計に感謝が心に染み入る。
また来年、お会いしましょう。

神田「まつや」にて。