リモンチェッロ作りにはまっている。
きっかけは、青山の「トンマジーノ」で、「簡単ですよ」と、教えられたからである。
国産無農薬のレモンの皮をむき(500mlに対し三個ほど)、白い部分をこそげとってウォッカに漬ける。
三~四日もすると黄色く色づいてくるので、味を見る。
苦味が、ほんの極わずかだけ滲み出た頃合がほど良く、漉して、シロップを好みの量入れて、冷凍庫で一週以上寝かして出来上がり。
キンキンに冷えたリモンチェッロを、うだるような夏の昼下がりにキュッと流し込む。
黄色いしぶきが喉に飛び散って、一瞬で汗が引く。
爽快が体の芯を突き抜ける。
そんなもんで、夕食後、風呂上り、寝る前にと、つい出番が多くなる。
ソーダで割る。
クラッシュアイスに並々注ぐ。白ワインに垂らす。
カンパリで割ってソーダを足す。
紅茶に二、三滴落とす。
ミルクに垂らしてみる。
スポンジケーキに染みこませる。
使える奴である。
ちょいと洒落たければ、グラスに1/3入れ、エスプレッソを1/3、軽く泡立てた生クリーム 1/3をそぉっと注ぎ、三層になったら、マラスキーノ酒を数滴、レモンの皮を削ったものを飾って「Quasi Night準公式な夜」というカクテルを楽しむのもいい。
砂糖の量を減らした奴も作っておいて、鶏や白身魚のソテーに加えても、リゾットやパスタに活用しても面白い。
夏の料理を爽やかに彩る、重宝な奴である。
最初に使用したウォッカはストロチナヤ。すっきりと仕上がったが、なにか物足りない。
そこで調べてみたところ、スピリタスを使えとある。
アルコール度数96度のポーランド産ウォッカで、酒というより精製アルコールである。
口元に運んだ瞬間、目が痛くなり、飲んで息を吐けば、ゴジラに変身できる世界最強の酒である。
なあるほど、この強さでもってレモンのエキスをより抽出させようというのか。
しかも度数は、シロップで割るため、調整できるというわけである。
かくして結果は上々、飲んだ瞬間、心はソレントの空へ抜けていった。
最近は、自作リモンチェッロを出す店が増えている。中でも傑作だったのは、用賀の「グランデママ」である。
色が薄目と濃い、二種類のリモンチェッロが出された。
薄いほうを飲めば、香り高く、体が浄化されるような、清涼感がある。
一方濃いほうを飲んで目を見開いた。
アルコール度は低いのだが、香りが実にふくよかで、目を閉じると、たわわに実ったレモン畑に立っていた。
蒼く青い空の下で、さわさわと葉が音を立て、太陽の匂いに包まれる。レモンの清清しさだけを蒸留したような、純粋な味わいである。
聞けば、スピリタスを使って一度作ったのが前者で、後者はそれに水を加え、さらにレモンを漬け込んであるのだという。
鬱積した精神の凝りがほぐれるだけでなく、満腹感が消えてまた食べられるような気分になる、危ない食後酒であった。