メバル讃歌3

食べ歩き ,

ご飯との相性もさることながら、メバルは西洋料理でも活躍する。

中でもよく用いられるのがポワレであろう。

三田の「コートドール」に登場するのは冬で、カリリと焼き上げた皮目にナイフを入れると、柔らかくふくよかな身から小さな湯気が上がって、透明な汁が滲み出る。

金沢産黒メバルの持ち味を信じて、シェフが合わせるのは、ペッパーソースである。

「ビストロ・ド・ラ・シテ」のメバルは、反り返るようにポワレされており、その身のうまみをブールブランソースの穏やかな酸味が引き立てている。

乃木坂「FEU」の下村シェフがメバルに選んだのは、翡翠色のスープのようなソースと、優しく茹でたグリンピースとアスパラガスである。

ソースはほんのりと若草の匂いが漂い、口にすれば、メバルのうまみや野菜の甘みと共鳴して、春が満ちていく。

渋谷の「エブリーヌ」で、かつて出されたメバルは、五香粉をつけてカリカリにポワレされ、ジャガイモのガレットにのって現れた。

プリッとした肉とジャガイモの食感の対比、エキゾチックなスパイスと身の甘みの調和が楽しく、また魚のフォン主体のソースとヴァンブランソースの二種、付け合せのトマトフォンデュ、そのいずれと合わせても、メバルは生き生きと呼応する。

フランス人シェフ、フィリップ・バットンのエスプリをメバルに吹き込んだ料理であった。

一方イタリア料理での出会いは少ないが、印象的だったのは、青山「リストランテ濱崎」の蒸し煮である。

いったんソテーして、トマトやアンチョビなどと蒸し煮にしたメバルの上に、香草入りパン粉をつけて焼いた白子をのせた皿である。

メバルと白子、野菜、蒸し煮汁を詰めたソースを一緒に口にすれば、白子のせいか、なにやら妙に艶っぽく、こんな面もあるのかと、胸が熱くなった。

メバルは、料理人が臨みたくなる魚なのだ。

豊かで温かい味わいに調和させたり、化学反応を楽しむかのように、様々な香りをぶつけてみたりと。

あの大きく、張り出した目が、お前の才能で俺を料理してみろとけしかける。

目に満ちた、自信と矜持に挑みたくなるのか。

そう思うと、名前も凛々しく感じられてくる。

名は体を表すだけではない、宿っている力をも表しているのだ。

ねえ、そう思いませんか、メバルさん。