東京版が発表された瞬間、料理関係ジャーナリストたちは、唖然としました。
星の多さに驚き、「かんだ」や「小十」を予想したで人は皆無。
「濱田屋」を始め、予想外の店が上がっていたからです。
読むほどに疑念は膨らみます。
まずガイド機能の不完全が、残念でなりません。
添付地図は正確だが、情報不足で、とても辿り着けない。
店名を間違えている(かんだなど)。
価格情報も不完全。
例えば「つきじ植村」では、明記の昼コースは要予約。
おまかせ時の値段表示がない。個人的には、中野区の消滅がショックでしたが。
ヨーロッパを旅するときに、あれほど有用だった本が、便利ではない、不親切だということに失望しました。
HPに記載された誤植の訂正文が探しづらいことも、不誠実を感じさせます。
料理名表記のない料理写真も、選定基準をうたう前に、これらを整備しないと、信用を得ないでしょう。
さらには、料理で選定したなら、せめて三ツ星店だけでも、シェフの名を表記して欲しかった。
同様に、スターシェフが居並ぶパーティーで、「濱田屋」だけ女将さんが代表というのも不可解です。
案内文に目をやれば、料理の文章量と内容に、統一性がない。
例えば、「ひろ作」は、明快で分かりやすいが、「濱田家」は僅かしかない。
料理長が読んだらどう思うでしょうか。
文を掲載するなら、料理選定理由を明確にするか、しないかどちらかです。
編集方針が曖昧なため、読者は迷うのです。
また「料理は東京の和食店」といった、意味不明な表現、「旬」や「こだわり」の多用も不満を煽っている原因の一つでしょう。
明らかな市場調査不足と準備不足(それとも確信犯か)ですが、ともあれ、ミシュランは売れ、世に多大な影響を与え、世界から注目されているのは事実です。
前書きの「東京版の刊行は、ミシュランガイドのコレクションにアジアが堂々と仲間入りしたことを意味しています」という上から目線が気に食わんという人もいますが、これは現実です。
先日「つきじやまもと」に出かけたら、「まったく英語が出来ないお客さまがいらっしゃいました」とのこと。
開店来初めてのことだそうで、ミシュランの影響で、これから日本料理は、こうしたお客さんにも開放されていくのです。
三ツ星顧客のアメリカ人だけではなく、ロシアや中国、アラブからも東京へ食べに来る。
一部の店で噂があるように、パリやドバイに支店を出さないかという話もあるでしょう。
閉鎖的でもあった日本料理が、そうした波にもまれて、どう変身していくのかが楽しみです。
また我々も、そうした動向を見つめながら、自分自身の基準を持つことも必要になってきます。
発売後、「あの三ツ星店に行きたいんだけど、紹介してくれないか」という話が多くありました。気持ちはわかります。
でも本当に楽しむなら、いきなり行っても意味がない。
例えば「すきやばし次郎」に行きたいなら、星つきと星無しのおすし屋さんを何軒も回って、自己基準をつかんでからでないと、見えてこないものがある。
星つきの店を回って批評するだけでなく、自分がいいと思う星なしの店を進言し、ミシュランにプレッシャーをかける。
ミシュランの成長を促し、東京のレストランが、より素晴しい美食都市に成熟していくのは、我々の問題なのである。