ヘルシンキの小さな店

食べ歩き ,

「今後どういう方向に進んだらいいのか、悩んでいます」。
星さんのレストランは、ヘルシンキの住宅街にある。
12席ほどの小さな店だ。
フィンランドの食材で、和食を作る。どれほど困難なことだろう。
昆布はいいが、鰹節は輸入禁止。冬は野菜が少なく、魚の種類も少ない。
魚の扱いも悪い。肉の脂や鶏肉を食べようとしない。
しかし水道水がきれいで、軟水のため、出汁とりやご飯を炊くのに適している利点もある。
典型的な和食を提供する方法もあっただろう。しかし彼は違ったやり方を選んだ。
「大根のツマと甘酢漬け大根、ワサビと生姜、小麦の若芽を添えた、炙りサーモン」。品のいい脂がのった鮭自体がなんともおいしく、目利きの良さが伺える。
「白アスパラガスのスープ シャンピニオン、エシャロット添え」。
春のほのかな苦みと香りに、冬の気配を残した茸の香りが溶け合う。
「白身魚春魚蒸し」。ハウキというカマスに似た魚をしん薯にし、野菜と蒸し上げ、ライム醤油を添えている。
同寸に切られた野菜の仕事がいい。
「牛すね肉と胸肉の肉じゃが」。コラーゲンが口の中でとろんと溶けるすね肉と、メークインに似たメロディというジャガイモの甘みが、笑みを呼ぶ。
海外で和食を展開する際、大切なことは翻訳力だと言われる。
そのままでは伝わらぬ、現地の文化風習をよく理解した上で翻訳し伝える。その資質は、充分に持っていられるように感じた。
またフィンランドに限らず、食材探しは常に怠っていないとも言う。
「まず食材。愛する食材を探すこと」。
愛するフィンランドで和食の花を開かせることを夢見る青年は、生意気なことを言う僕の意見に、目を輝かせながら、唇を噛み締めていた。
がんばれ。星くん。
2016

 

 

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