フィレンツェ「エノテカ・ピンキオーリ」にて

日記 ,

キッタラに、カニやエビ、白身魚や帆立を合わせ、パン粉とからすみを添えた料理である。
特に新しくもなく、個性的でもない。
しかしひと口食べた瞬間に、黄金色のため息が漏れた。
強くもない、優しすぎてもいない。
とびきり質の高い魚貝類が使われたであろう、エレガントに満ちていた。
キッタラが口に登ってくるたびに、優美な旨みが柔らかく膨らんで、ふわりと消えていく。
そして後には、自然の慈愛だけが残される。
柔和な温もりだけが、ほほ笑んでいる。
おそらく食材の質だけでなく、切り方、量、バランスも精妙に計算されているのだろう。
パン粉もこの料理のために焼いて作ったパンかもしれない。
ボッタルガも出過ぎずに、そっと海の豊穣を持ち上げている。
卵の甘みを静かに含んだキッタラの最後の一本を食べ終われば、パスタに絡んだソースはほとんど残らない。
品格とは、こういう料理のことを言うのだな。
Alla chitarra with seafood. Bread crumbs & grey mullet botarga
フィレンツェ「エノテカ・ピンキオーリ」にて