紀尾井町「ひとみ」

ハムカツと色気

ハムカツに色気は無縁である。
しかしこいつならいけるかもしれないと思った。
分厚いハムカツである。
「ハムカツは薄いのに限る」理論を長らく展開してきたが、噛んだ瞬間に揺らいだ。
ハムカツというものは、元々名前詐称が多い。
ハムといいながらソーセージを使っているところがほとんどで、その下品さがこの料理の魅力でもある。
ハムカツ用に特注したというこのハムは、そのあたりをよく分かっている。
ハムの優しさがありながら、ソーセージとしての大衆性も持ち合わせている。
だからきめ細かい衣を突き破り、ハムを噛んだ瞬間に、思わずニヤリとしてしまう。
両者の良さをバランスよく取り込んでいるハムだからこそ、厚くても成り立っている。いや厚くなくてはいけない。
最初はそのまま次に塩、そしてソースをかけて食べて見た。
さらに添えられているトリュフバターもつけてみた。
写真の小さいく乗っているのがそうである。
まさかトリュフも、極東の国でハムカツと合わせられるなぞ、露も思っていなかったろう。
しかし合わせちゃったんですね。
トリュフといっても、いささか人工的なケミカルな香りも潜んでいる。
それは仕方ない。
いやハムカツという料理の性格上、そのケミカルと会うのである。
そして下町の熟女が色気をチラリと現したような、したたかな艶を見せ始めるのであった。