前途多難。
晴れあるノミブの初会合に、叩きつけられたのはこの言葉であった。
初会合のテーマは、マカロニサラダ。
ポテトサラダ研究家として生きてきた私が、こっそり愛してきた肴である。
ポテサラに比べると、日陰の花といった存在のこいつが、哀愁を呼び、酒を呼ぶ実力者だと、証明してやろうじゃありませんか。
部員は、N嬢マネージャーと、居酒屋でマカロニサラダを食べた記憶がない、不届き者のM部員。
三者で早速、20数軒の居酒屋をリストアップし、協議に入る。
やはりここは、部名にふさわしき名酒亭「斉藤酒場」をスタートにし、南下しながら5軒程やっつけようという話になった。
ドレスコードは、マカロニに敬意を表して、白。
M部員は白服が無く、あわや退部寸前まで追いやられたが、マヨネーズ色の代案で、認可された。
夜七時。
十条駅に集結した我々は、意気揚々と店に向かう。
しかし立ちはだかったのは、「お盆休み」という現実。
呆然自失するも、即、対策を練り、
高田馬場「呑む呑む」(いい名だね)に電話確認し、移動する。
なにしろここは、女将さんの声がいい。注文の度に「はいよ」と響くハスキーな声を聞くと、つい長居したくなる。
マカロニサラダいました。なぜか刺身や焼魚に混じり、日替わり料理に入っている。
ビールで活動を祝し乾杯。部則を全員で復唱する。そこへいらっしゃいましたね、マカロニサラダ。まっすぐではなく湾曲型のめずらしいお姿だ。
具は発見困難な細切ハム、ヒリッと利いた胡椒が特徴だ。酒も変え、本日百円引きの芋焼酎ハイボールといってみよう。
しかしなぜ日替わりか? マカロニの形状やメーカーの違い、具や味付けの違い、うーん。様々な憶測を肴に酒が進む。
途中店内に貼られたポスターから、N嬢が、フィンガー5ファンであったことが発覚し、嬉しくなった部長は、肴を追加し、ヘネシーハイボールを頼んでいい調子。根が生え始める所を、N嬢から「次の店へ」と促され、腰を上げる。
次に目指すは、新宿思い出横丁の「つるかめ食堂」。ここはやっているはずと目の前に立てば、なんと今日から改装のためお休み。よし、ならば、「ぼるが」のねっとりマカロニを目指してやれ。
しかし暑い。本日練馬で38度を記録。「猛暑で、絶好の飲み日和ですね、部長」。いいぞM部員。飲んべは何事につけ、飲み日和にするのですよ。
「こう暑いと、すぐに酔いが覚めちゃうねえ、マネージャー」。
「いや気のせいです」。すいません。飲んべは、自己弁護しながら飲むのですよ。
バカなやり取りしながら「ぼるが」に到着。やはり。真っ暗。お盆休みである。
しかしこれで挫折する面々ではない。伊達にノミブなんて名前はつけません。直ちに次なる目標、
「もつ焼きばん五反田店」に電話確認をし、直行。こうして確認すりゃいいのにという声もあるが、行き当たりばったりも、はしごの楽しさよ。
「ばん」のマカロニサラダは、細くアルデンテ。マヨネーズ味が弱いのは、もつ焼きのリフレッシャー役か。
よしモツ焼きも頼もう、レバー、ホーデン、コブクロ刺しも頼んじゃえ。部長、ホッピー中身3のおかわりで、ほろ酔い気分。
「よし次は私のホームグラウンド、中野に行こう」。目指すは、
トリスバー「ブリック」だ。
ここのマカロニサラダは秀逸である。つぶれたマカロニの柔らかさ、具とのバランス、味付けの色っぽさ。辛子をつけて食べれば、トリハイが無性に恋しくなる。
部員たちは、ボウモアやラフロイグを飲んでおる。小生意気な。よしと立ち上がり。角のボトルを頼む。どうだ、参ったか。
「ノミブ。」とシールが貼られた角瓶を見ながら、飲む心地よさ。十条を起点に移動距離30キロ。前途多難を予感させる事態もあったが、人生は平凡じゃあ面白くないと、また自己弁護しながら酔いに体を任せ、マカロニサラダの証明なんぞ、とうに忘れているのでありました。