神谷町「ダ・オルモ」にて

チロルの慈愛。

食べ歩き ,

出来上がりました」
北村シェフが両手に鍋を持って現れる。
仔羊のチロル風煮込み。
オーストリアや北イタリアのアルトアディジェ地区にまたがるチロル地方で、よく作られる料理だという。
子羊腕肉の塊にマスタードを練り込み、白ワインとエシャロット、少しのホールトマトで1時間半ほど、ローズマリーやジュニパーベリー、黒胡椒、ティムールとともに煮込み、赤ワインヴィネガーで仕上げる。
食べれば、赤ワインヴィネガーの太い酸味が効いていて、それが子羊の柔らかい滋味に明かりを照らす。
噛むたびに、食欲が焚きつけられて愉快になる。
味わうたびに、赤ワインが恋しくなって、グラスに手が伸びる。
目を閉じれば、雪深い山岳部にある家屋の中で、ストーブにかけられた鍋から湯気が上がっている光景が、浮かんで来た。