「ジェノヴェーゼはスパゲッティではなくて、こっちのほうが合うと思うんです」。
湧き立つ青々しい香りに包まれるジェノヴェーゼは、わざと固く茹でたトロフィエで和えられている。
トロフィエの筋にソースが入り込んで、よりジェノヴァソースが引き立ち、固めのパスタを噛んで行くと、次第に小麦粉の香りがにじみ出てソースと抱き合う。
その瞬間がまた味わいたくて、フォークを運ぶ手が止まらない。
あるいは、「魚のソース ブシャーテ」。
魚の持つ優しい甘みだけを集結したソースが、ひねりのきいたブシャーテとくんずほぐれつ染み込んで、笑い出したくなる。
主菜は、「猪の煮込み」。コラーゲンの甘みが溶け出したソースと豆の甘みが響き合い、食べるほどに心が豊かになっていく。
野菜を細かく刻んでほんのり辛いマリネにしたサラダは、香り高く歯ごたえが痛快な、ブルガー小麦を使ったピタパンを添える。
プンタレッラのサラダは、切り方が精妙で、酸味とアンチョビの塩気の利かせ方が、プンタレッラのみずみずしさとほのかな甘みを生かしている。
どの料理も、味の筋が決まっている。
余分なうまさがなく、シンプルとは何かを知りぬいた清々しさがある。
しかしなぜ? こてこての北イタリア料理出身で、先進的な料理をしていたシェフが、地中海料理なのか?
「何回も旅して食べて、いいなあと思っていたんです。そうですね。長いことやっていると違うことがしたくなるんです」。そう言って、学芸大「オリーヴァ」の萩原シェフは笑われた。