シリーズ「いい店とは会いたい人がいる店である」
前回来た時には、時間が早くてマダムはいなかった。
だから今回は、昼過ぎに出かけた。
虎ノ門にある、古い洋食屋である。
店は、厨房にはご主人1人、外にマダムが1人。
「ナポリタンをください」と、お願いすると、
「かしこまりました」と、マダムがゆっくりと返事をした。そして厨房に向かい、
「すいません。トマトのスパを一つお願いします」と、注文を通す。
待っていると、工事関係者が入ってきた。
「すいません、今日から道路工事をやらせてもらってまして、音がうるさくて、迷惑をかけます」と、工事予定のチラシを渡された。
するとマダム
「お気をつけて、工事をなさってください」と言って、送り出す。
途中タバスコと粉チーズを持ってきて
「お使いください」と、置いていく。
ナポリタンは細麺で、具は、玉ねぎ、ハム、ソーセージ薄輪切り、マッシュルームそれになんとミニトマトも炒められている。
奥にサラダ、脇にはマカロニのケチャップあえが添えられる。
このマカロニは冷たい。
なので、スパゲッティに巻き込んで食べてみると、食感の対比が生まれて、楽しかった。
レジに行って「ごちそうさまでした。お勘定をお願いします」というと
「ありがとう、ございました」と、ゆっくりとした口調で話される。
なんと優しい響きだろう。
そして言われた。
「お口に合いましたでしょうか?」
「はい!おいしくいただきました」。
「まあそれなら、八千五百円でもいいわね」と、微笑みながら、千円札を受け取り、
「はい、1円五十銭のお返しです」と、百五十円を渡して、にやりと笑われた。
失礼ながら、ナポリタンも他の料理も、特に頭抜けて美味しいというわけではない。
でも僕は、また必ず、この店に来るだろう。
レストランとらのもんにて。