シベリアから飛来した滋養と脂。

食べ歩き ,

モロコに続いて野菜を焼く。
「さっきの火では、葱焼けないからね」。
固くしまったネギが甘い。

「さあ、前菜は終わり」</と
出されたのが鴨。
美しき青首鴨のオスだ。

目前の湖畔では、水鴨とユリカモメの群れが、気持ちよさそうに浮かんでいる。
落雁発祥の地ならではの光景だ。

鴨は琵琶湖畔の名物なれど、条例で捕獲は禁止されており、
福井などから取り寄せているのだという。

血色が美しい。

鴨のダシ鍋に、醤油と砂糖を少し入れ、たたきから煮始める。
野菜を入れ、最後にだき身。
浮かすように、鍋に入れる。
「沈めると固くなるんです。鴨は生きてる時も浮いてますからねえ(笑)」。

片面に火が通ったら裏返し、ややして食べごろ。
溶き卵へつけて。

野生の鉄分が、これでもかと舌に迫る。
濃厚で野太い滋味ながら、雑味なく、上品。

すいません。
まいりました。

「表情が変わるから、一日眺めていても飽きないでしょ」という湖面を眺めながら鴨つつく。

たまらない。
「湖の表情見るのが好きというて、ようけモノ書きの人が来ましたわ」。
30年やっている中居さんの話では、
「毎年来てはったんは、黒岩さん、水上さん、柴田さんも来てはったなあ。皆さんなくなってしもて。今あるのは瀬戸内さんだけや」。

最後は雑炊。

自家製の沢庵とともに。

鴨の滋養と脂で、汗が出るほど、体が芯から温まっている。
外に出ると、
湖からのの冷たい風が火照った頬に吹き付けた。