キャビアと牛肉。

食べ歩き ,

キャビアを見ると、拒否反応が出る。
嫌いではない。
だが、ただ料理を高価にするために、意味もなく使われているのではないかと、穿ってしまう。
この料理を出された時も、正直、際どいなあと思った。
なにせ神戸うすなが牧場産神戸ビーフのヒレのユッケに、海苔と金箔、オシェトラキャビアである。
恐る恐る食べた。
海苔で#くるりと巻き、食べてみた。
まず海苔の香りが来て、次に肉の軽やかな滋味と脂が来てキャビアが追いかけ、溶け合う
良きオシェトラなのだろう。
塩分が少なく、魚卵くささもない。
よって普通のタルタルの卵黄のように、いやそれより品のある甘みが肉の甘みと 、共鳴するではないか。
最後に、オシェトラ特有のヘーゼルナッツのような香りが漂い、肉の甘い香りと重なって、優美な気分となる。
たった二口くらいの大きさだが、十二分に時間を緩めてくれる料理だった。
#
次に出されたのは、肉の刺身である。
ガラス皿に並べられた四枚は、上田畜産の「特別な但馬玄」のサーロインで、月齢46ヶ月で融点が12度のものだという。
値段を聞けば、卒倒するほど高い原価らしい。
この融点ということを聞かされても、また訝ってしまう。
すでに脂が溶け始めて輝いていたので、慌てて口にした。
塩も何もつけずに口にした。
するとどうだろう。
サシの入った脂が溶け始めているというのに、鉄分の味がする。
中トロより赤みに近い、酸味の味と香りがあるではないか。
月齢が長いせいだろうか。
これは何もつけず、眺めることもせず、大至急四枚を食べ終えたい。
西麻布「神の戸」にて。