そのカキフライはいけない。
すごくいけない。
岩牡蠣のカキフライである。
普通のカキフライであれば、齧ると牡蠣のエキスがこぼれ出る。
しかしこのカキフライはそうではない。
香ばしい衣に歯が当たり、牡蠣の肢体に歯がめり込んでいく。
その瞬間、旨味が口に広がるのだが、エキスはこぼれない。
かじったまま皿においても、皿にエキスが流れ出さない。
強靭なアスリートのような肉体が、体液をしっかりとどめ、かじった部分だけの旨味を舌に流すのである。
しかもその旨味が濃い。
少しかじっただけなのに、牡蠣一個を口に含んだような濃密が、口の中を満たす。
「あわわわ」。
最初の一口だけで気分が高揚した。
齧る度に、どっと濃い旨味がこぼれ落ちる。
最後の一口まで肉体は崩れることなく、エキスを放出する緩みもない。
そこには、人間には体を許さないぞという、野生の気迫があった。
なつ吉にて