カイノミが好きだ

食べ歩き ,

カイノミが好きだ。
ヒレ肉のような繊細な食感と品がありながら、内臓のたくましさが漂う。
優美な中に猥褻を隠し持ったような色気があって、惹かれてしまう。
貴婦人と娼婦の二面性と言いましょうか、牛という動物の神秘に、味覚倒錯をしている風情があって、妙にコーフンさせられるのであります。
さてこの間、駒沢の「イルジョット」にて、まるさん牧場の近江牛と駒ヶ谷牧場のジビーフを食べ比べるという幸運に恵まれた。
写真向かって左側がジビーフ、右側が近江牛である。
近江牛は、今まで知ったるカイノミで、少し噛んだだけで溶けていくような、優しい繊維のなかに甘味があって、草のような内臓の香りが抜けていく。
一方ジビーフは固い。
いや、実際は柔らかいのだが、近江牛の歯を抱きかかけながらほどけていくような柔らかさではない。
歯をがっしりと掴み、「噛んで」つぶやく柔らかさなのである。
そしてこちらの方が草の香りが強い。
近江牛が、山の手の洋館で育った色白のお嬢さんだとしたら、ジビーフは、毎日野山をかけ巡って遊んだ、日焼けしたお嬢さんである。
どちらも健やかながら、色気が違う。
肉焼きの名手、高橋シェフの仕事だからこそ成し遂げた味である。
しかし互いの個性は知っていたつもりだけど、カイノミで改めて違いの大きさを感じた。
ちなみに僕は、どちらにも惚れてまう。