「エロいって、こういうことなんですね」。

同席した女性が言った。

魚を食べる。

命を奪った魚を、人間の体に取り込む。

日常当たり前のように行なっている行為だが、「感じる」と思うほどの色気は、普段は存在しない。

「感じる」とは、官能をくすぐることである。

普段僕が「エロい」と表現する気持ちもそうである。

人間の根源的な性的コーフンをくすぐる味だが、それにはその魚自体に余計なものがなく、海の中にいる純粋な状態を保っていなければならない。

その美しい生命感があるからこそ、色気があり、食欲が制欲を飛び越えて、精神を勃起させるのである。

漁師藤本さんの魚にはそれがある。

「あか吉」赤瀬さんの魚料理や寿司には、それがある。

写真は、サワラ漬けである。

食べれば、サワラが本来の色気をじっとりと滲ませる。

歯に優しく食い込んで、崩れながら、酢飯と舞う。

妖艶という言葉は、この握りのためにある。

心をほだす味は、いつまでも余韻として残っている。

魚と情を交わすとのはこのことである。

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