イデミ・スギノのクリスマスケーキ。

食べ歩き ,

イデミ・スギノのクリスマスケーキ。
手前が「フィグ・フィグ」。奥のショコラのケーキが「イリウス」。
フィグ・フィグを一削りして舌にのせると、花が開いた。
ひんやり冷たいムースは、固まるギリギリの柔らかさで、舌の温度に当って、淡雪のように散っていく。
いちじくの甘酸っぱい香りに、赤すぐりの濃く甘いジュレが加わり、それらを引き算するかのように淡く上品な洋ナシのムースが顔を出す。
美しい均整が、口の中でうっとりと踊る。
ははは。とだらしなく笑うことしかできないのが、悔しく、嬉しい。
さあ次はショコラだ。
杉野さんが今年訪れたブラジルのイリウスに触発されて作ったという。
そこはココナッツの産地、美しい海岸を持つ土地である。
そのムースを口にそっと運ぶ。ああなんたることだろう。
ショコラ、パイナップルとライム、ココナッツの三層のムースで成り立っていて、ショコラの甘い誘惑の後に現れる、パイナップルが素晴らしい。
甘く酸っぱく、そしてほろ苦く、そこにライムの香りとココナッツの優しい甘みを伴って、消えていく。
濃密な熱帯の情熱と陽気が、ショコラの中で破裂しては、またショコラに埋没する。
その時の流れに、翻弄され陶酔する。
一片のケーキに詰まった宇宙に、簡潔で美しい宇宙に、ただただ敬服をした。