「わたし、こんな気持ちになったのは、はじめてだわ」
噛んだ瞬間に、鶏が疼くように囁いた。
「ほうき鶏のソテ ソース・アルビュフェラ 」である。
しなやかできめ細かい肉体を持ち、伸びやかな香りを秘めたほうき鷄は、部位ごとに適切な加熱をされて、鎮座している。
それだけを噛んでも、しっとりと肉汁を舌の上に滴らせる。
ソースをからめれば、途端に鶏は、優美に舞った。
上質な香水をまとった貴婦人のように、高貴な品と妖美を漂わせて、官能を刺激する。
うまみが底なしに深い。
だが軽やかで、さらりとしながら、深い。
それがなんとも、憎い。
ソース・アルビュフエラとは、簡単に言ってしまえば、鶏のフォンとクリーム、バターによる、ソース・シュプレームに、赤ピーマンのピュレという旨味を加えたソースである。
だがアラン・シャペルは、赤ピーマンは加えずに、ジュ・ド・トリュフとフォアグラを加えて、同じ名を名乗った。
「シュプレームソースを基本に、自分流においしく作ればいいんだ」。
シャペルのルセットを見て、多くのシェフたちは思ったのだろう。
高良シェフもその一人である。
マッシュルームとエシャロットを炒め、ベルモットとボルトブランを入れて煮詰め、グラスドビアンドを入れる。
「ソース・シュプレームの基本さえあれば、時代時代で様々な解釈があってもいいと思いました。白ワインではないお酒を使い、クリームで煮詰めるのでなく、エッセンスを煮詰めて、クリームで伸ばしてやる。また、それだけだとまろやかすぎるので、わからないように唐辛子と白胡椒で引き締めました」。
こうして出来上がったソースをたっぷりからめて食べれば、途端に白ワインが恋しくなる。
途端に目の前にいる女性を口説きたくなる。
これこそがフランス料理ではないだろうか。
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