ぽん多のシチューには、自然がある。

食べ歩き ,

毎回出されるたびに息を吞む。
「ぽん多」のタンシチューには、神々しい美しさに輝いていて、フォークとナイフを取ることをしばし忘れてしまう。
かたまりに、ナイフを立てれば、すうっとナイフが肉に吸いこまれていく。
タンは、舌の上ではらりと崩れ、甘さを含んだ滋味が滲み出す。
たくましくも優しい肉のエキスが、噛むごとに溢れていく。
ソースは、酸味や甘み、うま味が、自然界に存在しているもののような丸さで、なめらかに舌を包み込む。
そのソースとタンが抱き合い、完璧な一つとなって喉に落ちかかる刹那、蠱惑的な香りが広がって、胸が切なくなる。
ぽん多のシチューには、自然がある。
圧倒的なうまさながら、わざとらしさが微塵もない。人間の影がない。
うまいだろうという押し出しがなく、混沌とした自然の中に、毅然たる気品を漂わせている。
たしかに高価ではある。
だが、厳選した黒毛和牛のタンの三分の一ほどの部分だけを使い、贅沢な材料をつぎ込みながら一週間かけて作ったソースと合わせる。
そうした古き良き仕事があってこそ生まれる、気品なのである。