ふと気がついたら火が通されて、ふと気がついたら、塩味が付いていたんです。
鶏がそう言っていた。
お腹にエシャロットと香菜、ハマナスの酒で漬けたほうれん草を詰め、岩塩で包み、蒸し焼きにした料理である。
しなやかな肉に歯がつつまれると、塩味が自然に溶け込んだ、穏やかな滋味が流れでる。
ああ。ああ。うまい、
噛むほどに、心が安らいでいく。
噛むほどに、おいしくなれと念じた、厨士の思いが沁みていく。
これほどまでに鶏をいたわり、愛した料理はあるのだろうか。
食べるたびに、鶏が愛おしくなる。
食べるたびに、鶏と同化していく。
止まらない。次の料理があることはわかっている。しかし食べても食べても、指は無意識のまま次の鶏肉をつかんでしまう。
ふと、真木ようこが食べる姿が見たくなった。彼女は、この鶏肉を手でつかみ、ゆっくりと噛んで、目を閉じる。
そして目を開け、こちらを見、無言で微笑むのである。
銀座 赤坂璃宮の名菜。