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ふぐ 味なき味が生み出す比類なき美味(二〇〇〇年一月号)

  • 鴨川

六本木「味満ん」   大都会で味わう天然とらふぐ

六本木の裏路地に佇む、さりげない構えだが、東京屈指のふぐ料理が堪能できる。店内はカウンター席に座敷の個室が三部屋。

使われるのは一・八キロ程の天然とらふぐ(シロ)。、各料理はいずれも量が多く、単品でも頼むことができるので、二人で訪れ、数種を一人前ずつ頼むのもいいだろう。

鼈甲色した「煮こごり」(千円)は、口の中に入れた途端にとろけ、奥深い滋味が広がる。青磁の皿に盛られた「ふぐ刺し」(一万六千五百円)は厚く引かれ、一枚ずつかみしめると、ふぐ本来の甘みが湧き出てくる。また二キロのカボスをガラス絞り器で絞って作るというポン酢は、まろやかでキレのいい酸味が優しい後味を生み、ふぐとの相性も申し分ない。

カマの部位を焼いた「塩焼き」(一万一千円)は、しゃぶり、噛むごとにうま味が滲み出てくる。ゼラチン質に富み、口の回りがべとべとになるのも魅力。「唐揚げ」(一万三千五百円)に使われるのは、うぐいすと呼ぶ口の部分と、ヒレ下の部位というどちらも一尾に一つしかない貴重な部位。カラリと香ばしく揚がった熱々の唐揚げにスダチをかけ、ブリンッとした弾けるような身肉を、歯でしごくようにして食べる。面白いのはヒレ下肉の中にある血合いで、酸味と鉄分を含んだふぐのイメージとは違ううま味を持つ。一月なら「白子焼き」(一万円)もぜひ。

大きな饅頭のようなぷっくらと太った二つの白子がこんがりと焼いて登場する「ちり」(一万六千五百円)は、まず、刺身にできない柔らかめの肉を厚めに引いたものでしゃぶしゃぶを楽しみ、次にアラの部位を楽しむ。しゃぶしゃぶは刺身とは違う妖艶な味。アラは口も手もべたべたにしてしゃぶりまくろう。最後の雑炊は、ふぐのうま味が凝縮していて、幸福な時間を締めくくるのにふさわしい。

値は張るが、決して敷居は高くなく、ふぐへの愛情に満ちた気さくなご主人の話を聞くのも楽しい。

味満ん  港区六本木3-8-8 Woo1階  tel.=03-3408-1512

営業時間=17:00~24:00(要予約)定休日=4月・6月・7月・8月の

第2・第4日曜日

荻窪「四葉」   雑味のないふぐだけ「ちり」をご賞味あれ

若き料理人長谷川新氏が生み出す、傑作の懐石料理とすっぽん鍋で有名な店だが、冬のふぐも名物。

ふぐは天然とらふぐ(シロ)で、一・八キロ、肝を抜いて一・一キロの一尾が二人分。ゆえに量が多く、その質とともにふぐの醍醐味を存分に味わうことができる。

まずは小鉢に入れられた湯引きの皮類「身皮、とうとうみ、皮」が登場。それぞれの歯応えを楽しみながら、うっすらと滲み出るうま味を味わう。次が「刺身」。厚く引かれた白透明な身にうっすらと飴色がさしているのは、うま味成分を多く含む証拠。シコシコとした身肉を噛みしだくように食べていると、一噛みごとに、ふぐ特有の雑味のないうま味が溢れ、笑いが止まらなくなる。ポン酢は、甘味、酸味のバランスの取れた味わいで、爽やかなキレのいい後口も魅力。そしてシンプルに野菜類を入れないふぐだけの「ちり」。皿には各部位が整然と並べられ、各部位ごとに説明しながら投入してくれるので、それぞれの味わいを楽しむことができる。中でも美味は、ゼラチン質が多い唇の回りの通称うぐいす。ふわりとした食感とプリッとした歯触りの両者が味わえる。そして最後は「雑炊」。ふぐの滋味が詰まった至福の味わいで、一杯目、二杯目と味が微妙に変化し、薄味の中からこれでもかというようなうま味が溢れ出してくる。目が眩むうまさのおこげも忘れずに。最後は白小豆自体の香りと甘さが引き出された白小豆餡。コースは時価で三万五千円程。シロの一・八キロが市場で五万円程することを考えれば、非常にお値打ち。

四葉     杉並区上荻2-20-7     tel.=03-3398-7093

営業時間=18:00~23:00(要予約)      定休日=日曜祭日

銀座  「おつぼ」   お腹も財布もご機嫌ふぐづくし

銀座で「ふぐ」となると、相当な出費を覚悟しなければならぬが、この店なら良質のふぐを安価でいただける。

コースは、前菜、刺身、煮こごり、唐揚げ、ちり鍋、雑炊の一万五千円からで、土曜日はその同質のコースが一万円のサービスとなる。五品盛りの前菜に続いて出される煮こごりは上品な滋味を持ち、食べると口の中の温度でふわりと溶ける。ふぐ刺しはやや厚めに引かれ、淡味の中にじんわりとしたうまさがある。ポン酢も嫌味のない素直な味わい。中骨を使った「ふぐ焼き」(一万七千円のコース)、カラッと揚げられた「唐揚げ」と続き、ちり鍋へ。座敷で食べるのもいいが、小人数なら、料理長の迎さんが自ら作ってくれるカウンターもお勧め。最初は厚く切った身をしゃぶしゃぶ風に、次にアラを煮て、合間にタイミングよく野菜類を出してくれる。雑炊は関西風にさらりと仕上げた、上品な味わい。場所柄、接待客が多いが、土曜日は静かでお勧め。

閉店

赤坂「鴨川」   父娘が織りなす家庭的ふぐ料理

赤坂の料亭街にある、畳部屋の個室が三室のこじんまりとした店で、九十にならんとするお父さんが包丁を握り、娘さんが女将をつとめる家庭的な店。

ふぐはコースのみで一万七千円から。前菜は、名物のふぐ金箔しんじょ、煮こごり、ふぐのダシを染み込ませた、ふくめ大根の味噌餡かけ、ふぐ入り卵焼き、からすみ、豆腐など、美しく盛られた八品。続いて出される「刺身」は、厚引きで噛み応えのある身肉。噛み締めていくとしっかりとした甘味が溢れ出す。ふぐの淡い味を引き立てるポン酢の味も絶妙。「白子」(三千円~一万五千円)はたっぷりと肥えた大きなもので、こんがりと焼けた皮が破れてとろりと流れ出る甘い身は、塩をつけて食べると一層引き立つ。そしてコースの圧巻「ちり鍋」。ふぐ一尾を丸ごと使い、まず厚めに切った身をしゃぶしゃぶ仕立てで食べ、次に中骨や、カマ、口回りのうぐいすなどを順次食べていく。それぞれにふぐの甘味の強弱、食感の違いを楽しめ、淡味のこの魚の中に様々な味わいが潜むことを知る。ザクは、豆腐、ネギ、春菊、白菜。女将が丹念に作ってくれる雑炊も輝きに満ちて幸福を呼び込む味わい。沢山のヒレより客がいくつか選び、自から炙って飲む香ばしいヒレ酒もぜひ。

そして気さくで陽気な女将さんの心のこもった接客が、何よりの賛沢。

鴨川   港区赤坂3-9-15  tel.=03-3583-3835

営業時間=17:00~23:00(要予約) 定休日=日曜祭日

浅草「田吾作」   関取の舌づつみ、下町気質の下関ふぐ

静かな浅草のはずれで老夫婦が営む、カウンターと小上がりだけのこじんまりとした店。

ふぐは前日の予約。予約が入ると予約分のみ下関に注文、天然とらふぐが当日の朝八時に到着する。

まずは多くの関取の大好物だという名物温泉玉子が出され、煮こごりと塩辛などの三点盛りの前菜が続く。たくさんの皮が込められた煮こごりは東京風の濃い味付けだが、口の中で溶けるとふぐの滋味がしっかり余韻として残る、上等な味わい。続いて出される刺身は、やや厚めでコリコリとした食感とともに、ねっとりとしたうま味が次第に滲み出てくる。湯引きの皮類も厚く切られ、しなやかな歯触り。ふぐを盛り立てるポン酢醤油は関東流のやや甘め仕立て。そして特徴のあるのが「唐揚げ」。骨なしの大きな切り身を揚げ、甘辛い特製の唐揚げ用タレを絡めて出す。ほっくりとした熱々の身肉はジューシーで、タレの味わいが酒を呼ぶ。最後は「ちり鍋」。カマ、中骨、厚切り肉など、たっぷりと出されるので、思う存分ふぐを堪能することができる。ザクは、ネギ、白菜、豆腐、椎茸。雑炊はゆるめで薄味、玉子をふわりと仕上げた上出来の味わい。

ふぐはコース一万三千円とお値打ち。下町気質が滲み出た、気さくなご主人や奥さんと雑談しながらの食事は実に楽しく、浅草で食べることの幸せを実感できる。

閉店

台東区浅草3-23-15

門前仲町「小川屋」   手搾り橙にみる今も昔も変わらぬ味

かつて木場があり、置き屋があった門前仲町は、料亭や割烹がひしめき合っていたという。創業七十五年のこの店も、その頃の残り香を感じさせる店の一つ。

小体な店内は、厨房に面した六席のカウンター席と小上がり。気取りなくゆったりとした食事を楽しめる。

コースは一万二千円。つきだし、煮こごりと蛸刺しの盛り合わせに続き、ふぐ刺しが。薄引きの刺しは歯触りがよく、端麗な味の中よりじんわりとしたうま味を感じる。

大量の橙を手絞りしたポン酢もうまい。中骨や頭中心に七切れほど盛られるちり鍋も確かな味わいで、ゼラチン質に富んだ頭の部位が特に美味。最後は餠と雑炊。実直そうなご主人と気さくな仲居さんが下町風。

小川屋  江東区富岡1-1-3  tel.=03-3641-2369

営業時間=17:00~22:00(要予約)  定休日=日曜祭日