のったりと

食べ歩き ,

のったりと、のったりと流れゆく川のせせらぎが聞こえ来る。
時折小鳥が、気まぐれな歌を囁く。
木々は、登った太陽に向かって、体を開き始める。
ここにはそれ以外の音が、なにもない。
心が背伸びをして、細胞が緩みながら、活性化してゆく。
そんな時の中でいただく朝餉の幸せを、噛み締める。
主菜は、野菜鍋だという。
「鍋の後はぜひ雑炊をお作りください」。と言われて、燃えた。
私は、何を隠そう(隠す必要もないが)「鍋奉行協会会長」である。
野菜を食べ終えた後、鍋に残ったカスを掃除し、鍋つゆを一旦沸き立たせる。
つゆの量を調整した後、御飯を入れて、火を弱める。
御飯がつゆとなじもうと、努力を始める。
頃合いで、あおさソースを少し入れて加減を計り、いよいよ卵である。
鍋表面の温度具合を観察し、弱いところから流し入れ、2呼吸したら強い部分に流し入れて、火を止める。
椀にそっとよそって、黒七味をはらりとかけた。
清廉な空気に包まれた雑炊が輝いている。
そこだけに、幸福が満ちている。
ぼくはゆっくりと、雑炊をすすった。
星のや京都にて。