ラーメンの上に、雪が降っている。
東京に雪が降った月曜日、幡ヶ谷のラーメン屋「どっかん」に向かった。
ここは、変わった営業形態をとるラーメン屋で、曜日を区切って三種類のラーメンを出し、店名も変えるのである。
火曜から金曜は、「長岡生姜醤油」の「我武者羅」、土日は「巻町割スープ付濃厚味噌」の「弥彦」、そして月曜日は、「燕三条背脂煮干し醤油」の「どっかん」となる。
この月曜日に油好きは目指す。
いわゆるラーメン通でいうところの「背脂チャッチャ系」という、仕上げに豚の背脂を振りかけるラーメンである。
金属洋食器工場の多い燕市で生まれたラーメンで、ハードに働く人たちの嗜好に合うよう味を濃くし、出前でも冷めないよう、背脂を多くかけたラーメンだという。
そう、油道を極めるなら、看過できないラーメンなのである。
ドアを開けると、カウンターは、男男。皆一人客で、黙々とラーメンをすすっている。
いいなあ。道場のようで、実によろしい。
食券700円を買って待つ。食券売りの横に、「脂の多い少ないは、食券を出す時に言ってください」とあって、心が揺らいだが、今回は初回。ノーマルでいこう。
カウンター越しにラーメンが出来る様子をうかがっていると、仕上げにレンゲで二杯、背脂をハラハラと振り掛けた。
「おまちどおさまでした」。さあ登場だ。
おお。
ラーメンの上は一面背脂。5~7ミリ角の背脂が、スープ上、チャーシューの上、青菜の上、もやしの上にも乗っているではないか。
美しい。
どか雪ではない、シーズン初めの玉雪の風情があって、寒さ厳しい燕三条の風土が思い浮かぶ。
まずスープを一口。
レンゲですくうと、もれなく背脂様の固まりが、5~6個流入する。
真黒なスープは、強力な煮干しのうま味に支えられ、そのせいで醤油味は強いがしょっぱくない。
ずずっとすすれば、ふんわり背脂が、唇や舌に当たって心地よい。
煮干しの濃厚さに調和するべく、麺は太くコシがあり、肉汁に富むチャーシューは分厚く、シナチクも太い。
一方、ホウレン草ではない春菊のほろ苦みと、生玉葱微塵の刺激が、脂にアクセントをつける。
ただ濃厚背脂ではない、計算されたバランスがある。そのため二百gの緬は、ツルルといともたやすく腹に納まるのだ。
そして背脂様は、麺をすすっても、チャーシューやほかの具を食べてもからみ、そのふわりとした食感と舌溶けで、魅了する。
脂分せいか食後三十分経っても、胃袋が温かい。
そして舌と鼻には、煮干しのうま味と香りの記憶が残存する。
危ない。
クセになりそうだ。
週一日だけと思うと、なおさらまた、行きたくなってくる。
「心や」に店名変更