そのおにぎりは、酒が飲める

食べ歩き ,

そのおにぎりは、酒が飲める。
無骨な姿は、松前産の天然岩のりである。
11月頃から寒い日が続いた年だけ、よく年の初めに収穫されて干される。
噛んだ瞬間に、海のしぶきが舞った。
潮の潮たる塩味が、舌を優しく打つ。
噛んでいくと、うまみが次から次へと湧き出でて、かぶさっていく。
噛む。噛みしめる喜びに、歯が打ち震えている。
こりゃあ、酒だ酒だと燗酒を飲めば、酒の甘みと米の甘みに海苔の甘みが混じり合い、極上の笑顔を呼ぶのだった。
みつばの若葉の天麩羅である。
クローバーの背丈のような、数センチ伸びた三つ葉をもぎ取って天ぷらにしたのだという。
サクッと衣がはじけると、微かにあの三つ葉の香りがする。
そしてゆっくりとゆっくりと、優しい甘みが流れていく。
函館「季肴酒」にて