「自宅に近いところがいいと思って始めたのが20年前、50の時です」。
そういって、松下さんは語りだした。
「周りには飲食店もないし、駅からも10分かかる。「松下」のために足を運んでいただける。だからこそ真剣になる。できることといえば、毎朝築地に行って最高の食材を仕入れ、出来るだけ安い値段で出すだけです」。
そう言って笑った。
そういえば築地で偶然お会いしたことがあった。恐らくいい魚を手に入れたのだろう。店では見ないような屈託のない笑顔をしていらっしゃった。
立ち仕事の連続で膝が悪くなり、一時は這うようにして歩いていたという。
「だましだましやっていたのも限界になりました」。と、店をやめる決意をした。
「店とは、始めるより終わらせる方が大変なんです」。
寂しい言葉である。しかし昔の職人らしい、一本気で闊達な松下さんである。
その表情に寂しさは微塵もなかった。
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