すきやばし次郎

食べ歩き ,

昨夜は、いつもより大きなサイズを使ったアジと、見事なかんぬきのさよりが特に素晴らしかった。
同席していただいた方は料理人で、必ず職人の手を見るという。
師匠のアラン・バッサールから、「料理人を雇う時は手を見なさい。これから学ぼうとしている手か、もう学びをやめた手か見抜きなさい」と、言われたという。
そして前者の手を持つ者を雇われたという。
小野二郎さんの手を見て言われた。
「感動しました。なんとエレガンスで、ジェネラスな手なのでしよう。あのジェネラスな手が、あのお鮨を生み出しているのですね」。
ある日二郎さんが話されたことを思い出した。
「この間、夢を見たんですよ。イカは今までこう切っていたけど、こう切った方がおいしくなるぞつてね」。
90歳を遠にすぎても今なお、より良くなる方法を追い求める。
日々の仕事を精査し、点検しながらも、満足することなく、理想を追い求める。
すきやばし次郎の鮨をあえて一言で言うなら、エレガントである。
寿司ダネと酢飯が舞いながら抱き合い、同時に消えていく。
こんな優雅で洗練された鮨は、他では食べたことがない。
エレガントの語源は、‘慎重に物事を選ぶ’と言うラテン語だとされている。
二郎さんは、そうして仕事を続けられてきたこそ、エレガンスを鮨に宿すことができたのだろう。
そしてそれは、ジェネラスな手として表出し、その手が技術を超えた、美しい鮨を生み出すのだ。