神保町「はせ川」閉店

しゃけのきりみ定食千円

食べ歩き ,

紹介するのをためらうような盛況ぶりである。

カウンターの十二席は、開店と同時に埋まり、行列ができる。

皆さん常連のようで、店に入るなり、「さばの尻尾」。「カマになかおち」。「ぎんだらに半熟卵」。「えぼ鯛にごぼうサラダ」と、淀みなく好みの品を伝えていく。 わたしも負けずに品書きを素早く読んで、「鮭のかま焼き定食になかおち(小皿で三百円)お願いします」と申告したが、

「ああごめんなさい。いまかま終わっちゃった」と、悲痛なるお答え。

すぐに売り切れてしまう人気のかま焼きを断念し、切り身へと方針を変更した。

ところがこれが大当たり。運ばれてきた鮭を見れば、身は艶やかで、腹側の脂は適度に落とされながら、焼きむらもなく、皮は焦げずにカリッと焼かれているではありませんか。

鮭の塩焼きは頻繁にお目にかかる昼定食の定番だが、これほど美しく焼かれたものは、そうはない。 箸をつければ、身はほろりとはがれ、しっとりと焼き上がった身が、ご飯を猛烈に呼び込む。

後は香ばしい皮や脂がのった腹身と、部位の違いを楽しみながら一直線。

それを受け止めるご飯も味噌汁もしごく上等。

この地で三十数年、質の高い魚定食を供してきた、この店の誠実が込められた味わいである。

後日裏を返していただいた、塩さば(頭か尻尾を選びましょう)や銀むつ西京焼き、かま焼きも、同じく誠実が満ちていた。

世はスローフードとやかましく、外食産業が成熟したというが、こんな店が町々に一軒ずつあってこそ、成熟というのではなかろうか。

「はせ川」

 千代田区神田錦町3-20

 神田ユニオンビル一階

 3291-9146

 11~14

  土日祝

神保町駅から徒歩3分

写真はイメージ