これが芋の姿なのか。

食べ歩き ,

寡黙な芋が、唇を少し上げて、微笑んだ。
その瞬間、風が吹き抜けた。
羽衣のような柔らかさで、頬をなで付ける。
これが芋の姿なのか。
本来芋は、1年間しか寝かせられないという。
それを2年間寝かせた。
デンプンは糖分に変わり、繊維はゆるくなって、一体化していく。
甘い。
だがその甘さには、近寄りがたい気品が宿っている。
柔らかい。
その柔らかさは、乳児の頬のようであり、上質な羊羹であり、脆弱さの中に一滴の凛々しさを秘めている。
キャビアは、その塩気でそっと芋の甘さを手助けし、クリームはそのコクで、芋の滑らかさを膨らます。
キャビアもクリームも、王女にかしづくかのように、誇りを持って芋をたたえている。
一個のメークィンは、ここまでの高みに登るのか。
陶然としながら、なくなっていく寂しさに、唇を噛み締める。
札幌「ル・ミュゼ」にて