この三つの料理は、どれも卵4個とスープ100ccでできている。
だが、どれ一つとして同じではない。
味わいも、香りも、食感も違う。
言ってみれば、どれもかき卵なのだが、卵の黄身と卵白を、その味と性質を、どの方向に花開かせるかを、徹底的に考え抜いた料理である。
「赛螃蟹(サイパンシェ)、北京風かに玉「炒芙蓉蟹」、「溜黄菜」
こういう料理を食べると、中国料理の底知れぬ奥深さに痺れる。
表現するならば、
赛螃蟹は、絹をまとった、「真綿」であり、
炒芙蓉蟹は、「淡雪」であり、
溜黄炒は、「雲」である。
それぞれの繊細さと儚さがあり、それぞれの豊かさを秘めている。
聞けば、特に「溜黄炒」が難しく、名手だった上野毛「吉華」の故久田大吉さんも、斎藤さんに教わり試したというが、完成できなかったという。
油の量や温度、卵を落とす位置と速度、かき回す速度、どんな卵を使うかなど、多岐にわたって高度技術が必要になる。
荻窪「北京遊膳」だけで味わえる、北京料理の名作である。
卵4個とスープ。
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