ここにもまた、変態がいた。
29歳で独立し、熟成した魚を使い寿司を握るという。
それだけ聞けば、大丈夫だろうかと思う。
熟成の魚は、まだまだ未知の領域である。
それを、やすやすと若手の職人が制することはできるのだろうかと、不安になる。
しかし彼は、その道の険しさと怖さを知りながら、着々と歩み始めていた。
「うろこ、皮、身、骨、血、脂を分けて、それぞれ1日ごとに経過を味見してみました。人体実験ですね。また同じ魚でも大小を試したりと、様々な方向からやってみました。おかげでずいぶんお腹壊しました」と笑う。
その結果想像通り、血の劣化が激しく、いかに血を抜き取るかを研究した。
そして針金ではなく、水圧で抜き取る津本式神経じめに出会い、様々なノズルを開発する。
「東京に出て来て築地を回ったら、あまりに素晴らしい魚が多くて、次々と買ってしまいました。今冷蔵庫には、30種類もあります」
酢飯は、ミツカンの山吹と横井の與兵衛を合わせている。
魚は、塩の量を変えたものや風乾させているものなど、様々な工夫を試みている。
中でもその日は、13日の鯖と「大阪にいる頃はイサキを熟成させようとは思わなかったんですけど、築地にはあまりにも見事な魚体があったのでやってみました」という、18日のイサキが面白かった。
まだ出来たて、9/17開店の「万」という、白山洸さん
29歳の寿司職人である。