こういう料理を作る人が、大好きです

食べ歩き ,

チュッ。
高野豆腐が抱いていた出汁が、勢いよく口の中に飛び出てくる。
その瞬間に僕は、高野豆腐を愛していることを知る。
「君のこと大好きさ」。そう心の中でつぶやいてみる。
時には、チュッではなくて、しらっとだらしなく汁が出てきたり、汁の味が濃すぎて余計だったりすると、悲しくなる。
「君のせいじゃない。でも今度会う時まで愛は預けておくよ」。そう言って箸を置く。
そんな高野豆腐は、寂しい表情で、皿の上でぽつねんと佇んでいる。
でもこの高野豆腐は、違う。
ゴマの衣をまといながら、誇らしげに鎮座している。
食べれば、ゴマの香ばしさが高らかに鳴って、高野豆腐が現れる。
朴訥で、静かな静かな滋味が広がって、こうべを垂れさせる。
「ああ、君は、今までなにも言わなかったけど、こんな味わいを持っていたんだね。目をつぶってよくよく噛んでみて、初めて知ったよ。今まで気がつかなくてごめんね」。
そしてさらに愛が深まっていく喜びをかみしめる。
曙橋「敦煌」にて。

こういう料理を作る人が、大好きです。