きな粉のまあるい香りが、鼻がくすぐる。
わらび餅にそうっと歯を入れると、「いやん」と餅が粘る。
微かな抵抗をしながら餅が千切れると、あんこが顔を出した。
薄っすらと紫色を帯びたあんこは、どこまでも優しい。
舌触りも甘みも、香りもなめらかに、ゆっくりと溶けていく。
夢だ。これは夢に違いない。
かたや黒豆大福をを食べれば、ホタッと餅が唇に吸いついた。
「好き」。
そう大福に囁かれたようで、胸が疼く。
続いて穏やかな餡から、大きな豆がゴロリと現れる。
ほんのりと塩気を帯びた豆の香りが、幸せを運ぶ。
豆は活力がみなぎらせ、餅のはかない肌触りと対をなす。
これこそが、大福という菓子の魅力ではないだろうか。
出雲「なぎら長春堂」の若き7代目と奥様