おばはんの聖地

食べ歩き ,

おっさんの聖地「ホルモン」から、程近い場所に「おばはんの聖地」はあった。

知らなきゃ誰も来ないような住宅街にある、自宅を改造したラーメン屋である。

通常のラーメン屋というのは、店に入ると一同「ずるずる」と麺をすすっているものである。

中には、餃子とビールという人もいるが、最後は「ずるずる」でしめるものである。

しかしここには「ずるずる」がない。

ぼくが行く時だけなのだろうか。

とにかくいつも、あるべき「ずるずる」がない。

あるのは「だらだら」である。

ラーメン屋なのに、誰もラーメンを食べていない。

といってほかにある料理は、チャーシューとメンマに 青菜炒めとセロリの酢の物。

それに土曜日のみの餃子他少し。

それしかないのに、一同「だらだら」居座っている。

酒はビールに紹興酒としかかかれてないのに、ジントニックを飲んでいるおばはんがいる。

ジントニックやら日本酒飲んで世間話しているおばはんがいる。

この日(夜)も、おばはん客が5名カウンターに座っていた。

男子はぼく一人。

席数は8名であるから、おばはん占拠である。

おばはん占領である。

しかも全員70歳は当に超えてらっしゃる。

かしましい。

よくしゃべる。

 

端のおばはんは、サラダを肴に焼酎飲んでる。

その隣もおひとりさま。

おばはん独酌である。

無言の迫力がにじりよる。

ぼくはいつものようにして、おばはんにからまれないよう、小さくなって、小声でラーメンを頼み、静かにずるずるをした。

小麦の香りが漂う細めんと、姿も味も澄んだすばらしきスープに、具は葱だけという潔いラーメンを、なにも言わず食べ終え、心の中で「おいしいなあ」とささやいた。