おおっとこれは多いゾ。そばがチョモランマのごとくそびえ立つ。
すでに四人、ミックスのお好み焼き二つにカレー天一つ、ピザ風一つに、甲イカとはんぺん、山芋に茄子を食べたが、なそばは食べられるのか。
そんなことはかまわず女将さん、まだ温度低い鉄板に豚肉を置いた!
「今まで豚肉を熱したフライパンに乗せてなかった?」「はい」。「NoNoNo!」
女将さん得意のダメ出しであります。
「熱いと、豚肉のコラーゲンが接着剤になってくっついちゃうの」
豚肉が解け、色が変わってきたところで、今度は残り全部を投入したぁ。
山の移動です。皿から鉄板へと巨峰の移動であります。
煙が一気に上がりました。威勢のいい音が響き渡って、猛然たる煙であります。
おっと、今度は麺と具を鉄板全体に広げ、コテを動かしている。手首の動きが妙に優しいぞ。これはどうしたことか。
「これ何してると思う?」 「均等に混ぜてるのですか?」「NoNoNo!」
来た。お約束のダメ出しであります。
「冷たい空気と暖かい空気を入れ替えてんの。炒めちゃダメ、ふわっとならないからね」。
頃合でまたそばをまとめて端に寄せ、空いた鉄板の焦げを取る。
お母さん芸がこまかいぞ。
再び広げると塩と胡椒を降り入れた。
「塩は高いところから満遍なく。胡椒は低いところからよ。くしゃみが出ちゃうからね。クシャん!」お母さんかわいいぞ。
そしていよいよソースの出番、回すように手早くかけたら、均一にしてお母さんまた何かを手に取った。
おっと青海苔であります、軽く握った手には青海苔がありますが、それを指先で均一に降っております。
さあ出来た。完成であります美しい。
そして一刻も早く食べなさいと、ソース焼きそばが叫んでいるではありませんか。
食べますよ食べますよ。ハフハフハフ。
ああこれは、ソース焼きそば界の貴公子か。
ソースの量が精妙で、なんとも優しい味わいだあ。
ふんわりと仕上がった麺が、口の中で舞を舞う。
食べ終えた後から、また一口また一口と食べたくなって、止まりません。
キャベツやもやしの炒めも精妙で、シャキシャキとみずみずしく、それが柔らかん食感の焼きそばと好対照で、一層食欲を高める。
先ほどまであんなにお好み焼き食べたのは誰ですか?
飽くことない味に仕上がって、ああ箸の加速が止まりませんっ!
そして何よりの調味は、お母さんのマシンガントークなのであります。
福竹にて