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うな丼 季節の鰻を一気に掻っこむ幸せ(一九九九年六月号)

食べ歩き ,

  • 荻窪 安斎 

荻窪 安斎  鼈甲色の美しい鰻

うな丼一筋。荻窪駅から五分ほどの住宅街にある一軒家。テーブル席八席、二階座敷の小体な店を、夫婦で切り盛る。品書きは、うな丼二千六百円の一種類だが、日によって大きな鰻が入ったときは、その上もあり。注文より三十分以上待つが、その間に、お新香や「うざく」「白焼き」を肴に、久保田や八海山を飲るのもいい。うな丼は、春から夏は溜め塗りの漆器、秋から冬は染付の丼に入れられる。丼のふたを取ると、一点の焦げ目もない鼈甲色の鰻が現れ、その美しさに思わず息をのむ。余分な脂が落とされ、ふっくらと焼き上がった鰻は、皮まで抵抗なく箸で切れ、口中では鰻の滋味と辛口のたれ、ご飯の甘味が、見事に溶け合う。大根、蕪、胡瓜、茄子などの自家製お新香、焼き肝が入ったきも吸いも上出来。急ぐむきは、電話で注文してから出かけるとよい。

杉並区荻窪4-12-16 tel.=03-3392-2059

営業時間=11:20~13:45  17:00~売り切れじまい

定休日=火曜日

南千住 尾花  老舗で味わう天然鰻

鰻がうまいとされるのは、六月と秋口。今の時期の鰻は、皮が柔らかく程よく脂が乗った上品な味。そんな魅力は、天然鰻を扱う「尾花」でこそ実感できる。明治末期よりの老舗の入れ込み式の座敷は常に盛況。うな重は鰻の大きさに合わせて三種類あるが、「中」二千五百円のみ、溜め塗り漆器に入れられるうな丼。丼のふたを取ると、飴色に焼き上がった艷やかな鰻が、丼の縁にしなだれかかるように、横たわっている。立ち上る香りにつき動かされて一気に掻き込めば、ふっくらとした鰻が口の中でふわりと崩れて滋味が溢れ出し、笑いだしてしまうほど。

焼き上がりを待つ間のお勧めは「うざく」。

荒川区南千住5-33-1 tel.=03-3801-4670

営業時間=11:30~13:30、16:00~19:30(土日祭日 11:30~19:30)

定休日=月曜日

築地 宮川本廛 昔ながらの製法にこだわる

全国に支店を置く有名店。本店の二階は小体な空間で、心地好く過ごせる。うな重もうな丼も(千七百円より三千百円まで)両方出来るが、染付の丼に入れられるうな丼ならでは品書きは、「中入れ丼」四千百円と「いかだ丼」四千円~時価。前者はご飯の上と間に蒲焼を入れたボリュームのある丼で、中に入った蒲焼が柔らかく、ご飯やタレと混じりあって美味。また後者は、めそっこ(小振りな鰻)を三匹連ねて蒲焼にし、ご飯の上に乗せてある。甘辛の加減が程よいタレと繊細な香りが調和する丼である。後者は予約が必要。

中央区築地1-4-6 tel.=03-3541-1292

営業時間=11:30~14:00、17:00~20:30(日曜祭日 ~20:00)

定休日=土曜日

新中野  小満津 白焼きで味わう鰻の醍醐味

住宅街の中の小体な店を、夫婦で切り盛る。ご主人は、かつて京橋にあった名店、「小満津」のお孫さん。お勧めは「白焼き丼」二千二百円。染付の丼の蓋を取ると、ふっくらと香ばしく焼き上がった白焼きに、山葵が天盛りにしてある。しっかりと焼きを入れた白焼きは、箸ですっと切れる柔らかさだが、鰻本来の野味、香りの高さと、脂のキレのよさに溢れ、白焼きならではの魅力を存分に堪能できる。ご飯にかけられたタレは蒲焼用ではなく、辛口でさらりとした味わいで、白焼きを活かしている。

このほか、「うな丼」、鰻の天ぷらをのせて甘いタレを回しかけた「うな天丼」各二千二百円、短冊に切った蒲焼を卵でとじた「うな玉丼」千五百円もある。

中野区本町6-45-2  tel.=03-3384-7872  営業時間=11:00~13:30、17:00~20:30

定休日=木曜日

国分寺  うな八 とろけるような美人

脂がのった、とろけるような鰻が好きな人にお勧め。

国立駅から車で十分の場所。うな丼は、鰻の大きさの違いで二千円からだが、驚愕はスーパースペシャル一万円とスペシャル八千円。前者は百五十匹に一匹、後者は百匹に一匹の割合で手に入る、腹が白く丸々太った、美人鰻で作られる。直径十八センチの大漆器丼で出され、ふたを取ると威風堂々たる鰻がご飯にしなだれている。ご飯と一緒に箸ですくわないと崩れてしまうほど柔らかく、脂の甘味が口一杯に広がる。柔らかめのご飯は、無農薬有機栽培天日干しの米を羽釜と薪火で炊く。タレは甘めで多目。値段に見合うかは個人の好み次第だが、話の種にぜひ。他にお勧めは肝焼きと鰻茶わん蒸し。

国分寺市新町1-11-4 tel.=042-323-1915

営業時間=11:30~22:00 年中無休

(事前に電話確認をしてください)

東麻布 野田岩 ≈ 旬の天然鰻の野味

ご存知創業百五十年にならんとする鰻の名店。常に天然鰻にこだわり、利根川、霞ヶ浦、有明海、岡山児島港、静岡焼津、そして韓国や中国、地中海と、質のいい天然鰻を求めて世界中から取り寄せている。しかしそれでも通年に渡っては供されないが、六月と秋口には、素晴らしい天然鰻に出合える。特に今の時期、六月の筏の蒲焼は、川魚特有の香りが高く、比類無きうまさを体験できる。品書きにはうな重だけで、うな丼は書かれていないが(二千五百円より)、すべてうな丼にもしつらえてくれる。

さらにお勧めは、「志らやき中入れ丼」三千五百円。ご飯の間に白焼きを挟み、さらに白焼きをのせた丼で、上の焼き目が香ばしい白焼きと、ごはんの熱で蒸され、ふわりと柔らかくなった中の白焼きの、二つの味わいが楽しめる。日本酒、ワインも充実しているので、鰻の煮こごり、鰻のつくだ煮など充実した肴で、焼き上がるまでの間、じっくりと楽しみたい。

港区東麻布1-5-4 tel.=03-3583-7852

営業時間=11:00~13:30、17:00~20:00

定休日=日曜日

神田  鰻のねどこ・中川 さらりと食べたい粋なうな丼

神田藪蕎麦の近く、路地に風情ある佇まい。店名通りの細長い店内に、香ばしい蒲焼の香りが漂う。染付の丼に入れられたうな丼は、一種類千九百円のみ。うな重二千五百円より小さめの鰻を使う。そのため脂ののりが程よく、あっさりといきたいむきにはお勧め。タレは辛口でさらりとしており、うな丼の鰻を実によく盛り立てている。固めに炊かれたご飯、蕪、大根、胡瓜などの自家製糠づけ、肝吸い、いずれも上出来で、特に肝吸いは秀逸。鰻は数に限りがあるので、夜は必ず予約を。鰻の半身が入れられた「うざく」、事前に予約が必要な「白焼き」もぜひ。

千代田区神田須田町1-19-4 tel.=03-3251-2138

営業時間=11:30~14:00、16:00~19:00

定休日=土曜祭日

閉店