いよりん10歳と未経産のえりこ3歳

食べ歩き ,

8産した、いよりん10歳と未経産のえりこ3歳の肉をいただいた。
どちらもジビーフである。
えりこはみずみずしく、噛んだ瞬間に湧き水のように肉汁が溢れ出す。
しかしそれは猛々しいというより、澄んだ優しいうま味があって、口腔内を浄化して消えていく。
おそらくのんびりと、母の愛情を浴びながら育ったのだろうなあという味である。
方や、いよりんはどうだろう。
えりこのようなみずみずしさはない。
一噛みで、「うまいっ」と叫ぶ肉ではない。
だが静かに、そろりと人間の味覚に近づいてきて、本性を見せ始める。
なんと噛んでいくうちに、滋味がどんどん膨らんでいくのではないか。
しかもその滋味は、甘いようであり、血の凛々しさもあり、養分の喜びもあり、草の香りもありと複雑で混沌としている。
「私の魅力は、二噛みぐらいじゃわからないわよ」と言われているかのように、いくら口を動かしても消えていかない。
老練な神秘が動き続けながら、翻弄するのである。
こんな肉なら、何度でももてあそばれたい。
やはり人間同様、年を重ねたものにしか出すことのできない「味」がある。
それも自然と同化しながら、本来持って生まれた生態のままに育ったジビーフだからこそ味わえる資質なのだろう。
遠く様似を思い浮かべて、感謝した。
実は非常に希少な、腎臓の食べ比べや内臓の煮込みも食べたのだが、その話は後日。
「イルジョット」にて。