東京駅「南国酒家」

あんかけ焼きそばに目がない。

食べ歩き ,

無類の焼きそば好きである。
なかんずく、ソース焼きそばや香港焼きそばより、あんかけ焼きそばには目がない。
チャーハンや湯麺を食べようと、中国料理店に入っても、あんかけ焼きそばを頼んでしまう。
欧米へ旅行して帰国すると、日本料理よりあんかけ焼きそばが食べたくなる。
今までのベストは、今はなき原宿「福禄寿」の五目あんかけ焼きそばで、会社が近くだったせいもあって100回以上は食べたであろう。
エビ、イカ、豚肉、鶏肉、白菜、青菜、椎茸、筍の他に、豚のマメとガツに鶏レバーが入っていたのが特徴だった。
そしてなにより、麺は焼き色をつけて、しっかり焼いてあったのが、たまらない。
まず素のまま食べ、次に酢をかけ、辛子をつけて食べ、次に芥子の上から酢をかけて溶かし混ぜ、最後は豆板醤をちょっとつけて締める。
酢をかけすぎて、最後はジャブジャブにするのが好きだった。
そんなあんかけ焼きそばファンにとって、ここは天国だろう。
なにしろ「あんかけ焼きそば専門店」なのである。
東京駅北グランスタにある「南国酒家」に、初めて入った。
あんかけ焼きそばが数種類、しかもあんと麺が別々に出されるので、好きなようにかけられるではないか。
さらには味変用として、あんかけ焼きそば用にブレンドしたという酢、辛子を溶いた辛子酢、食べるラー油が用意されている。
これは楽しい。
五目あんかけの具は、イカ、エビ、チャーシュー、豚肉、青菜、白菜、筍であった。
取り皿をもらい、麺を少しずつ入れ、餡をかけて味変しながら楽しんでみた。
ふと隣を見ると、若いカップルが2組いて、あんかけ焼きそばを注文した。
だが全員、運ばれてきた瞬間に、あんを全部麺の上にかけて食べ始めた。
しかも味変用の酢やラー油を手に取るものの、かけようとしない。
彼らがお金を払っているのだから余計なお世話だが、これではこの店に来た意味がないじゃないかと、おじさんは一人憤慨していた。
だが食べて思う。
取り皿によそって食べると、あんかけ焼きそばのダイナミズムが失われて、食べづらい。
あんと麺のバランスがとりづらい。
結局半分まで食べたところで、取皿をやめ、あんを麺の上に全部かけた。
やはりこの方が、断然おいしい。
彼らの方が正解だったのである。