おそらくこの店で、「釜揚げうどん」を頼む人は、ほとんどいないだろう。
もう何十回とお邪魔させてもらっているが、食べている人を、見たことがない。
だが寒い日には、このうどんが妙に恋しくなる。
湯桶の蓋を取ると、もうもうと湯気が立ち上がって、顔を包み込んだ。
持ち上げたうどんの艶が、湯気の中より誘いかける。
熱々のつけ汁を猪口に注ぎ、うどんをつけてすすった。
もりそばと同じ辛汁だが、温められているせいで甘く感じ、それがほのかに甘いうどんと寄り添う。
「ああ、うまいなあ」。
心の中で、本心が囁いている。
大根おろし、紫蘇の極細切り、洗いネギを適時猪口に入れ、、うどんとの出会いを楽しむ。
うどんは、十数回噛むと消えていく柔さで、その優しさが、気分をふんわりといなしていく。
「ああ、うまいなあ」。
もう一度心がつぶやいた。
困ったことに、また頼みたいものを知ってしまった。
神田「まつや」全メニュー制覇中。後11品目。







