あえかなり。
口に入れると、淡雪となった。
喉に落ちる刹那、赤ピーマンは香りをくゆらせながら、消えていく。
パリでこの料理が誕生して40年弱、数多くの同じ料理が作られた。
だが一つとしてオリジナルと肩を並べられるものは、ない。
「赤ピーマンのムース、トマトのクーリ」。
赤ピーマンの優しい甘みに、トマトの酸味が舞って、ときめきを生む。
ムースはかよわく、美しく、ようやく存在して、形をとどめている。
たまゆらの美学がある。
葉に宿る朝露のはかなさに、思いを初める。
命の不思議とたくましさに、目を閉じる。