ああ、こんな鶏肉があったのか

食べ歩き ,

今まで食べたどんな手羽先でもない。

今まで食べた、どんな胸肉でもない。

孵化してから、地野菜など食べさせ、一年かけて育てたという飛来幸地鶏は、我々の概念をひょいと覆す。

手羽先を噛めば、ふわりと歯が入った後に、肉が歯を押し戻す。

ぐっぐっ。

固いのではない。肉に命の弾けがある

ぐっぐっ。

顎に力を込めて肉を食らう。生命をいただく感謝が、体の底から湧きあがる。

手羽先なのに、脂が少ない。味が濃い。

舌の上で、肉、肉、肉と叫んでいる。

胸肉は、なんと腿より味が逞しく、口の中を濃密な滋味で満たしてくる。

レバーの刺身は、ウニのように甘く溶け、腿の一部だという「プルミエ」は、噛め、噛めもっと噛めと囁き、いつまでも肉汁を出し続ける。

またハツとレバーをつなぐ部位だという希少な「中落ち」は、こっくりとしたコクがあって、口の中からなくなるのが寂しくなる。

そこへ「北島亭」大石シェフが作ったパテ・アンクルートが、鶏の様々な部位の味わいを口の中で開かせ、干しブドウとポルトを利かせたレバーのムースは、甘美な気品を漂わせながら、のどへと消えて、陶然とさせる。

ああ、こんな鶏肉があったのか。