〜生きているステーキ〜
「サシが入っている肉は、もう食べられない」。
そう言ってきた自分が恥ずかしくなるステーキだった。
同じ黒毛だが、手前がサシの入っている肉で右がそうでない肉である。
最初にサシの入っている方を食べた。
同席して食べた人は、有名な精肉店の方である。
同時にナイフで切って口に入れた。
その途端二人で「うっ」と唸った。
そこには想像するサシの入ったステーキの味はない。
ほろ苦い、焦げた表面には、うまみが凝縮し、肉を噛めば、純粋な、濃い肉の滋味だけが、どっと溢れてくる。
脂のしつこい後味は、みじんも口に残らない。
それよりもっと食べたいという、欲求だけが募っていく。
一塊は100g、二つで200gだが、食べ終わって「これは5〜600gはいけるね」と言い合った。
「サシのある肉はせいぜい食べられて100g」と言っていた自分はどこに行ったのか。
肉は三回にわたって焼かれる。
1回目はさっと白焼きにし、2回目中の肉汁を沸かし表面に集めていくが、出さない。そして最後にそれを落ち着かせるように焼く。
切った断面を見て欲しい。
包丁で切られたのに、膨らんでいるではないか。
肉のエキスが躍動して、中から出ようとしている。
つまりこれは「生きているステーキ」なのである。
高山さんの今までとは違う、新たな焼き方に感銘した。