〜正統ザバイオーネ〜
「ザバイオーネはありませんか?」
イタリア最古のレストラン、トリノの「del cambio」で、伝説のカメリエーレと言われるエンツォに聞いた。
メニューには記されていなかったからである。
エンツォは、いたずらっ子のような笑顔を浮かべて答えた、
「しばらくお待ちください」
そしてザバイオーネは現れた。
卵の豊かな甘味を湛え、マルサラの香りで誘惑し、適量な砂糖が食欲を刺激する、完璧なザバイオーネである。
ルネッサンスの時代からピエモンテの人々を虜にしてきた正統ザバイオーネは、軽くもなく、重くもなく、ぼってりと口に流れ込むが、甘い余韻だけを残して夢のように消えてしまう。
流麗として舌に流れ、溌剌として鼻腔を揺すり、妖艶に口腔を舐め回すのだった。